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 国民投票・住民投票の政治的位相
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   更新:2012/11/30
 連載 国民投票・住民投票の政治的位相
南部義典



第1回 幻に消えた、初の18歳選挙

▼はじめに

 このたび、連載を始めます。タイトルは「国民投票・住民投票の政治的位相」です。

 「政治的位相」とは、政治・行政における評価を前提に、ある制度がどのように機能しているか、又はその機能がどのように変わろうとしているか、という程度の意味で理解してください。

 本稿を書き始めたタイミングで、衆議院が解散されました。近いうちに、政権再交代が訪れようとしています。正直なところ、民主党政権の3年3か月間において、国民投票、住民投票が有意な制度に成り変わったという事実はありません。広く、参政権というカテゴリーでみても、直接参政権(公務就任権、国民投票権)、間接参政権(選挙権、解職請求権)いずれも、ポジティヴな見直しは何一つ、問題提起すら行われませんでした。

 総選挙の後、野田内閣は総辞職し、新しい政権が誕生します。来年以降、国民投票・住民投票の政治的位相はどうなるのでしょうか。

この分野の恒常的なアクターは、政治の世界では不在です。実に残念なことです。

中長期の予想を企てることは不可能ですが、本来為すべきだった議論を見失わないためにも、テーマを適宜取り上げ、必要論点の灯を燈し続けていくことの必要性を痛感しているところです。

今回は、「幻に消えた、初の18歳選挙権」です。

▼幻に消えた、初の18歳選挙権

 今回の衆議院議員総選挙は、憲法改正国民投票法が全面施行され(2010年5月18日)、衆参両院で憲法審査会が揃って始動した(2011年10月21日)後、初めて行われる国政選挙です。実は、18歳以上の日本国民に選挙権が与えられる、憲政史上初めての選挙になるはずだったのです。

 ここで憲法改正国民投票法、憲法審査会と、選挙年齢の18歳引き下げが一体どんな関係にあるのかと、疑問を持たれるかもしれません。

 憲法改正国民投票法は、今から5年前、2007年5月14日に成立し、同18日に公布されました。公布の日から3年を経過した日、つまり2010年5月18日に全面施行されることになっていたのですが、その3年間のうちに、選挙年齢を20歳以上と定める公職選挙法、成年年齢を定める民法その他の法律の改正を行うことを予定していました。

 とくに選挙年齢については、憲法改正国民投票法が投票年齢を18歳以上と規定したことから、同じ参政権に属する選挙権との整合性を保つため、法律上の選挙年齢を20歳から18歳に引き下げるための法制上の措置(公職選挙法の改正)を政府に命じていたのです(附則第3条)。

 結局、その3年間は、憲法審査会の未始動(憲法審査会規程の未整備、憲法審査会委員の未選任)問題等がネックになり、必要な法改正は行われませんでした。憲法審査会がようやく始動した後には、上記公職選挙法の改正問題が最優先で解決されるはずと見込んでいましたが(衆参両院で憲法審査会が始動した国会の会期中、公職選挙法の改正が行われていれば、少なくとも周知期間は一年間確保されたことになります)、それは見込み違いであり、まったくの期待外れでした。

 国会と内閣は、憲法改正国民投票法の附則第3条を無視、放置し、いわば仮死状態に置いているのです。それが故、公職選挙法の改正は行われていません。

▼18歳選挙権は世界の潮流

 世界192か国・地域のうち、選挙年齢を18歳以上と定めるのが170の国・地域に及びます。OECD加盟国で選挙年齢を20歳と定めているのは、日本だけです。

 10月、リトアニアで原発建設の是非を問う国民投票が実施されました。投票権は18歳以上の国民です。11月、アメリカ大統領選挙が行われました。選挙権は18歳以上の国民です。各国では、18歳以上の若い世代が当然に政治参加をし、一票に政治的意思を託しているのです。

日本の若者のシティズンシップがこのまま蔑ろにされ続けることは、国のガヴァナンスの危機をもたらすことを、立法者は痛切に感じる必要があります。

▼参議院選挙には何とか間に合わせる

 2013年の夏には、参議院の通常選挙が行われます。18歳選挙権はこちらで実現することを、確たる政治目標と位置付けるべきです。

公職選挙法の改正は、総選挙後に召集される特別国会で、日程ギリギリの法案処理をして、実現できます。法改正を受け、参議院選挙に間に合わせようとすれば、実務的には、選挙人名簿のシステム改修を全国の自治体で、急ピッチで行う必要が生じます。もし万が一、日本で憲法改正が発議された場合に、当該国民投票に使用される投票人名簿は18歳以上又は20歳以上いずれでも対応できるようにはなっていますが、選挙と国民投票は居住期間要件その他の要件定義が異なるので、投票人名簿の調製システムを代用することはできません。選挙人名簿の新規システムを導入するためには、新政権による強力なリーダーシップが求められます。当然、交付金事業として必要予算を確保しなければなりません。

憲法改正国民投票法附則第3条の立法趣旨からすれば、民法の成年年齢の引き下げも行う必要がありますが、その法整備は公職選挙法の改正よりも後れても仕方がありません。何より、公職選挙法の改正を優先させることです。

この機運を逃すと、相当長期間にわたって18歳選挙権が実現しないという、悪い予感が付きまといます。

 18歳選挙権問題を、負の位相から、正の位相へ。議論はこれからが本番です。


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筆者プロフィール
南部 義典(なんぶ よしのり)(慶應義塾大学大学院法学研究科講師)
1971年岐阜県生まれ。95年、京都大学卒業。同大学院在学中に、国会議員政策担当秘書資格試験合格。2010年より現職。専門は国民投票・住民投票法制、議会オンブズマン法制。2007年、衆議院及び参議院の憲法調査特別委員会で、公述人として発言。2009‐10年、議会オンブズマン調査研究会事務局。2010年、憲法円卓会議(第II期)事務局。2012年、元衆議院議員の早川忠孝氏らと動態的憲法研究会を立ち上げ、共同代表を務める。著書に『Q&A解説・憲法改正国民投票法』現代人文社、2007年がある。

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