改憲の是非を問う国民投票
─その意味とルールを考える
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   更新:2008/03/25
 改憲の是非を問う国民投票─その意味とルールを考える(3回連載その2)
今井 一
※本会運営委員の今井一氏が、昨年11月に北海道地方自治研究所(http://www.hokkaido-jichiken.jp/) 主催の研究会に参加し報告した話(「改憲の是非を問う国民投票─その意味とルールを考える」)が『北海道自治研究』2月号(3月8日発売)に掲載されます。(頒布価格500円。申込先:TEL011-747-4666 FAX011-747-4667)。
本連載は、北海道自治研の御厚意により、ほぼ同じものを3回に分けて掲載するものです。
改憲の是非を問う国民投票
─その意味とルールを考える
(3回連載その2)

憲法改正の規定と改正手続法の成立

  日本国憲法の改正は、第96条第1項に、「この憲法の改正は、各議院の総議員の3分の2以上の賛成で、国会が、これを発議し、国民に提案してその承認を経なければならない。この承認には、特別の国民投票又は国会の定める選挙の際行はれる投票において、その過半数の賛成を必要とする」と規定されています。
 実際に憲法改正を行おうとすれば、衆参合わせて3分の2以上の賛成ではなく、衆参各院でそれぞれに3分の2以上の賛成が必要であり、しかも国会ができるのは「発議」、すなわち、国民への提案でしかなく、改正するにはさらに国民による直接投票にかけて過半数の賛成を得る必要があります。
 憲法は法律と違い国会の多数派を占める勢力が簡単に変えていいものではありません。日本国憲法は他の先進諸国の憲法と同様「硬性憲法」ですから、改正のハードルが高くなっています。国民投票で決めるというルールも、そのハードルの高さを表すものです。
 この憲法改正の発議や国民投票に関する手続きについて定めた法律が、憲法調査会や憲法調査特別委員会での約2年にわたる議論を経て、2007年5月18日に制定・公布されました。「日本国憲法の改正手続に関する法律」がそれです。同法第1条(趣旨)には、「この法律は、日本国憲法第96条に定める日本国憲法の改正(以下「憲法改正」という。)について、国民の承認に係る投票(以下「国民投票」という。)に関する手続を定めるとともに、あわせて憲法改正の発議に係る手続の整備を行うものとする」と謳われています。
 同法の法案策定をめぐっては当初、民主党は自民党、公明党の与党案にそのまま乗っかかる流れでした。しかし、私たち「真っ当な国民投票のルールを作る会」が当時、自ら策定した市民案も示しながら与党案の欠陥を指摘し、民主党に対して独自案を作成するよう求めたこともあり、民主党も短時間で一気に対抗案をつくりあげました。最終的な法案は、自公案と民主党案の併合修正案であり、内容的にはほとんど民主党案が継承されたという経緯があります。

憲法改正手続に対する国民の理解度の低さと背景

 ここで、憲法改正手続きに関する日本国民の認知率がどれくらいあるのか、この50年間の推移を紹介したいと思います。
 これについて朝日新聞社が初めて調査した1952年、新憲法公布・施行から数年という時期ですが、この頃でさえ、調査結果を見ると、「知らない」が82%に上るのに対し、「知っている」は18%で、うち正しく理解していたのはわずか6%のみでした。
 それから50年後、私は『「憲法9条」国民投票』(集英社新書、2003年)を執筆するにあたり、2003年7月〜8月、東京都および大阪府で、先述の朝日新聞の調査と同じ質問項目を用いて対面調査を行い、計200人から回答を得ました。この時の調査結果では、「知っている」は33%に伸びましたが、うち正しく理解しているのは7.5%にとどまりました。50年経ち、メディアにも憲法が頻繁に取り上げられるようになっているにもかかわらず、憲法改正手続きについて正しく理解している者はほとんど増えていないわけです。
 2005年にも再度同様の調査を行なったところ、国民投票法に関する議論自体がメディアにも頻繁に取り上げられるようになっていたせいか、正しく理解している者は16%まで増えました。他の調査結果も踏まえると、現状では憲法改正手続きについて正しく理解しているのは2割程度にすぎないだろうと言われています。ちなみに、憲法改正手続きについて「知っている」と答えながら、正しくは理解していなかった人たちからは、具体的には「裁判所が決める」「内閣が決める」「国会が決める」「国会議員の3分の2以上で改正できる」などの回答がありました。
 以上のことから、残念ながら、日本国民の大多数は、「憲法改正」という、主権者として主権を行使する最も重要な機会について、その内容や仕組みを依然として全く理解していないということが言えます。これについては、今後あらためてきちんと学習し直すことが不可欠であるように思います。
 その学習の機会として選挙はどうか。残念ながら、この国では憲法問題はなかなか選挙の争点にはなりません。例えば07年の参院選では、安倍首相は憲法改正を前面に打ち出し、社民・共産両党も護憲を自らの基本姿勢としながら憲法問題を争点化しようとした一方で、民主党は真正面から憲法問題を取り上げることを避け、社保庁における年金記録の不備問題や格差社会の問題を打ち出しました。結果として民主党が圧勝したわけですが、先般、民主党所属のある参議院議員と会った際、「次の衆院選では、民主党も逃げずに憲法問題を争点化してほしい」と言ったところ、「それは絶対にあり得ない」と言われました。次の衆院選で勝って政権を獲りたい民主党としては、絶対に勝てる争点を押し出さざるを得ず、現状では、票にならない憲法問題は引っ込め、年金や格差社会の問題で勝負するしかないということでした。
 つまり、こうしたことの積み重ねで日本はこの半世紀を過ごしてきたのであり、それが憲法改正手続きへの国民の関心の低さにも表れているということです。前述したとおり、すでに改正手続法が制定されているにもかかわらず、ほとんどの国民はその内容について理解していません。ここで注意を要するのは、私が「国民の多くは憲法改正手続きについて知らない」と言うとき、それは同法の内容についてではなく、もっと基本的なことすら知らないということです。

「日本国憲法の改正手続に関する法律」の検討

 (1) 18才以上の日本人に投票権

 憲法改正国民投票で投票権を有するのは、第3条に「日本国民で年齢満18年以上の者は、国民投票の投票権を有する」と規定されているとおり、18歳以上の日本人だけです。
 まず投票権を日本人に限定するかどうかをめぐっては、社民党から永住外国人にも認めるべきだとの意見が出され、熱い議論が交わされました。
 確かに、近年行われた国内の住民投票の事例を見ると、旧米原町で初めて認められて以降、実施した自治体の半分程度は永住外国人の投票権を認めています。ただ難しいのは、世界各国の事例では、特定の自治体住民を対象とした住民投票のレベルで永住外国人の投票権を認めるところは少なからず見受けられる一方、全国民対象の国民投票でそれを認める事例は、特定の国家間で相互に認め合う場合が1部例外的にあるとはいえ、ほとんど皆無です。諸外国でも、国防や条約批准、国連やEUへの加盟といった案件について永住外国人にも投票権を認めるということには疑念があり、日本の憲法改正手続法でも結局は認められませんでした。
 また、18歳以上に投票権を認めることになっていますが、未成年者を18歳未満とするか20歳未満とするかをめぐっても議論がありました。イギリス、ドイツ、フランス、アメリカの多くの州など、先進諸国では18歳以上を成人とするところが多数派であり、20歳以上のところはわずかです。
 問題は、どこの国でも選挙権と国民投票権の有資格年齢が統一されていることであり、現在の日本のように、選挙権は20歳以上だが、国民投票権は18歳以上だという状態はあり得ません。したがって、日本では今後、実際に発議が行われる数年の間に、幾つもの法律を改正し、成人の定義を18歳以上に統一していくことになります。ちなみに、改正手続法の付則では、2010年の施行時までに民法の成人年齢について「検討し、必要な法制上の措置を講ずる」と記されています(注@)。
 私は、18歳以上に投票権を認めることは悪くないと考えます。20歳未満への投票権付与については学識・経験不足という批判も根強く聞かれますが、国内の住民投票の事例を見る限り、すでに投票権は18歳以上ばかりか高校1年生以上、中学1年生以上など様々に認められており、共通して言えるのは、少なくとも投票所に来る者は年齢にかかわらず、新聞、テレビの報道をチェックし、友人同士で話し合ったり、両親や学校の先生に質問するなどして、皆よく学習しているということです。
 住民投票と選挙とを比較すると、20〜25歳の若者層の投票率が全く違っており、選挙では40%程度にとどまるのに対し、徳島市でも御嵩町でも住民投票では50%以上が投票しています。

 (2) 一括投票か、条項ごとの個別投票か

 投票形式をめぐっては、@複数の条項を一まとめにして賛否を示す一括投票になるのか、A各条項ごとに賛否の意思を示す個別投票になるのか、という問題があります。しかし、他国の事例を見る限り、相互に全く関係のない問題を並べて回答は一つということはあり得ません。個別投票は世界の常識です。
 とはいえ、日本でこの先、憲法改正の国民投票が行われた場合、それが完全に個別投票になるかどうかについては、まだ曖昧な部分も残っています。
 一つは自民党内の手段を選ばない人々の思惑です。私は3年半ほど前、自民党所属のある国会議員と討論会に出席した際、憲法改正手続法では条項ごとの個別投票になるかどうか問い質したことがあります。彼の答えは「それは何とも言えない」というものでした。自分たちは何としても9条を変えたいので、改正に有利なことは脱法しない範囲で何でもありだ、と言うのです。そのため、投票方式においても、例えばプライバシー権や環境権の明文化と9条の改正の賛否について一括、抱き合わせして投票させた方が各項目ごとの個別投票より有利だと判断すれば、自民党はそうすると言うのです。彼は、正直な人で「それがよくないと言うのなら、国民世論を盛り上げてもらうしかない。こうした提案が自民党から出されたとき、国民が強くノーと言えば、私たちはその案を引っ込めるが、特段声が上がらなければ、そのまま押し切る」と明言しました。
 もう一つは、実際に成立した法文の曖昧さです。改正手続法とともに「国会法の1部を改正する法律」が成立し、これにより、「国会法」第68条の3で、「前条の憲法改正原案の発議に当たっては、内容において関連する事項ごとに区分して行うものとする」と規定されました。つまり、「プライバシー権の明文化」と「環境権の明文化」と「9条の改正」が一括投票になることは絶対にない半面、「9条第2項の書き換え(改正)」と「9条第3項の追加(改正)」を「関連する事項」として一括して賛否を問い、一括して投票させる可能性は残っています。いずれにせよ、国民投票では国会で発議した項目ごとに賛否が問われるので、例えば「9条第1項の改正」と「第9条第2項の改正」が、国会で別個に発議されれば国民投票でも別個に賛否が問われるし、一括して発議されれば国民投票でも一括して投票させられることになります。

 (3) 公務員等の国民投票運動への参加の規制

 いわゆる「公務員法制上の政治的行為の制限等に関する規定」をめぐって、憲法改正手続法そのものには、国家公務員であれ、地方公務員であれ、教育労働者であれ、「その地位にあるために特に国民投票運動を効果的に行い得る影響力又は便益を利用して、国民投票運動をすることができない」(第103条)との規定はあるものの、そもそも国民投票運動(賛否のキャンペーン活動)自体に参加してはいけないとはどこにも記されていません。しかし、「国家公務員法」や「公職選挙法」はじめ、既存の数十ある関連法律に基づいて、公務員等の国民投票運動への参加が、その政治的行為の制限への違反として罰せられる可能性は依然として残っています。
 ところで2006年末段階での自民、公明、民主の衆議院憲法調査特別委員会理事による「与野党合意」では、公務員等の国民投票運動への参加を制限する可能性のある関連法について「適用除外」の項目を盛り込むことで合意されていました。
 現行の選挙制度では、公務員等の政治的行為には様々な制限が加えられ、ビラまきや戸別訪問も困難な状況ですから、憲法改正国民投票で関連諸法の「適用除外」が実現されれば、それは画期的なことになるはずでした。しかし、結局は民主党が07年の参院選の選挙戦を前にして、「一般的国民投票制度の導入がなされない」ことを理由に法律の制定に反対し自民党との対立姿勢を強めたため、前述の合意は反故にされてしまいました。これに伴い、上記の適用除外事項についても、併合修正案策定の事前審査で削除されてしまっています。
 この法案づくりには、数の力や政局を持ち込まず、徹底した議論によって真っ当なルール設定を行なう─これが衆議院憲法調査特別委員会の良いところだったのですが、小沢氏が選挙対策上、与野党対立を鮮明に演出したことにより、土壇場になって良質な3党合意はひっくり返されてしまいました。
 その直後、私は改正手続法が成立する直前に、参議院憲法調査特別委員会に参考人として招致され、「国民投票運動の規制について」と題する意見陳述を行い(2007年5月8日)ました。この中で、参議院で適用除外事項を復活させて修正可決し、衆議院で再可決してほしいと発言しました。その後の参院選により、現在は参議院の議席は民主党が多数をとり、社民・共産両党も公務員等の政治的行為の自由化には賛成です。今からでも遅くはないので、できるだけ早く適用除外事項を復活させてほしいと願っています。

 (4) テレビ・ラジオのスポットCMへの規制

 国民投票に関する広告の扱いをめぐっては、新聞の意見広告の場合は規制はありませんが、テレビやラジオのスポットCMには制限が加えられることになり、第105条に「何人も、国民投票の期日前14日に当たる日から国民投票の期日までの間においては、次条の規定による場合を除くほか、一般放送事業者等の放送設備を使用して、国民投票運動のための広告放送をし、又はさせることができない」とされています。
 ただ、CM規制のスタートをいつからにするかという点では議論になり、発議と同時に規制、完全に自由化など様々な意見が出されました。私が衆議院の憲法調査特別委員会で発言したのは、期日前投票の始まる2週間前から制限するべきだということです。ちなみに、スイスでは発議と同時にテレビのスポットCMは流せなくなり、フランスでは期日前投票が始まる日の朝から制限を受けます。
 なぜ新聞は制限を受けず、テレビ・ラジオは制限を受けるかと言えば、活字媒体の広告と違い、テレビやラジオのスポットCMでは、15秒ないし30秒という短時間で、理性ではなく感性に訴えるものが流され、視聴者がマインドコントロールのような状態にかけられる可能性があるからです。
 社民・共産の両党は、スポットCMは発議と同時に規制すべきだと主張していますが、一方、自由法曹団など9条護憲派の弁護士の中には、規制は言論・表現の自由を侵すという理由で、一切自由にすべきだと主張する人もいます。私見では、スポットCMはただの広告であり、言論・表現の自由一般とは違うので、これを同一視して論じるのは逆に危険ではないかと考えています。

 (5) メディアは「中立」であるべきか

 メディアは自らの論調を「中立」にすべきか否かという問題をめぐっては、先進諸国の事例を見る限り、新聞とテレビでは差があります。
 まず新聞は、スイスでもフランスでもそうですが、中立ではなく、自らの旗幟を鮮明にすることがモラルとして求められます。どちらの国民も、旗幟を鮮明にしない新聞はそもそも買いません。例えば、フランスでのEU憲法批准をめぐる国民投票に際し、『リベラシオン』紙は明確に反対の論陣を張りました。
 これに対し、テレビは媒体の性格上、新聞とは全く違って、絶対的な中立性を求められます。
 例えばフランスの場合、「オーディオ・ビジュアル高等評議会(CSA)」という機関があり、国民投票のキャンペーン合戦が始まると、日本で言うNHKの『日曜討論』やテレビ朝日の『朝まで生テレビ』のような討論番組の内容を監視しています。具体的には、賛否両派の員数が同じかどうか確認し、さらに、スタッフを配して双方の発言時間をストップウォッチで計測しています。仮にある番組で一方に発言時間を多く与えすぎていれば、同委員会は番組放送中、あるいは放送後にテレビ局に指示を出し、最終的に双方の発言時間の帳尻が合うように調整させます。
 日本のテレビ番組の場合、現状では中立性の維持は全く図られていません。例えばテレビ朝日の『TVタックル』などで「9条改正問題」を扱う場合、出演するのは自民党や民主党の9条改憲派の議員ばかりで、社民・共産の護憲派の議員は1人も出てこないような状況が見られます。このようなことはフランスでは絶対に起こりません。
 憲法改正手続法第106条第6項に「第1項の放送(日本放送協会及び一般放送事業者のラジオ放送又はテレビジョン放送)に関しては、憲法改正案に対する賛成の政党等及び反対の政党等の双方に対して同一の時間数及び同等の時間帯を与える等同等の利便を提供しなければならない」と明記されました。これにより、国民投票のキャンペーン合戦が始まった後においては、中立性の損なわれた番組づくりは「放送法」上もできなくなったので、テレビで憲法改正に関する討論番組を放送する場合、賛否双方の員数、発言時間ともに均等にしなければならなくなっています。

 (6) 発議から投票まで

 国会が憲法改正の発議をしてから、国民投票を行うまで空けるべき期間については、第2条に「国民投票は、国会が憲法改正を発議した日(国会法第68条の5第1項の規定により国会が日本国憲法第96条第1項に定める日本国憲法の改正の発議をし、国民に提案したものとされる日をいう。)から起算して60日以後180日以内において、国会の議決した期日に行う」と規定されています。すなわち、60〜180日です。
 この期間の設定をめぐっては、与党は当初30日〜60日と非常に短い案を出し、私たちの市民案は60〜90日だったのですが、最終的に与党の方から60〜180日という案を出してきて、これに決まりました。世界標準は、一部の例外を除き、概ね30〜90日です。
 期間設定をどのくらいにするかは、投票にかけられる問題の内容に左右されるので、法文上は幅を持たせて規定する必要があります。例えば、私学助成制度に関わる憲法89条なら30日もあれば十分でしょうが、憲法9条となると、最低でも3カ月は必要だろうと思います。
 また、国民投票は国政選挙と投開票日を合わせなければならないかどうかについては、憲法96条には規定はありません。投票箱を別にして衆院選や参院選の日に合わせて行うことも可能ですし、国政選挙とは全く別の日に国民投票だけを行うことも可能です。とはいえ、憲法調査特別委員会の全党一致項目で、国民投票は国政選挙とは別の日に実施することが望ましいということで合意されています。これは同日に行われることになると、国民が混乱するからです。つまり、現状から言えば憲法改正の国民投票は自民党と民主党の両方が賛成しないと発議できませんから、国民投票では両党は同じ主張をすることになる一方で、選挙ではお互いに激しく戦っているわけで、国民にとっては非常に話がややこしくなります。

 (7) 最低投票率の規定がないことの意義

 憲法改正手続法では、第126条に「国民投票において、憲法改正案に対する賛成の投票の数が第98条第2項に規定する投票総数の2分の1を超えた場合は、当該憲法改正について日本国憲法第96条第1項の国民の承認があったものとする」と規定されています。つまり、実際の投票数が有権者数の何%を占めるかにかかわらず、そのうちの50%以上の賛成が得られれば憲法改正は成立するのであり、これは最低投票率が設定されていないことを意味します。
 憲法改正国民投票の最低投票率に関する規定を法文中に設けるか否かをめぐっては、朝日新聞による世論調査の結果として「国民投票法案/最低投票率「必要」79%」(2007年4月17日朝刊掲載)と報じられたほか、法案が衆議院通過後に参議院の民主党系議員を中心に異論が出され、大きくもめましたが、結局は修正案も出されず、そのままの形で成立しています。
 最低投票率が規定されないと、ほんのわずかな人間の賛意で、憲法改正の重大な意思決定が行われる可能性もありますが、私自身は、最低投票率は設けるべきではないと一貫して主張してきました。これは前述した徳島市の吉野川可動堰の建設の是非を問う住民投票での経験に基づいています。
 徳島市の住民投票の根拠条例である「吉野川可動堰建設計画の賛否を問う徳島市住民投票条例」は、第3条に「住民投票は、第9条に規定する投票資格者の2分の1以上の者の投票により成立するものとする」と明記していました。同条例は全国で初めて最低投票率の規定を設けた事例です。
 この住民投票のキャンペーン期間中に見られたのは、不利とされる建設推進派(自民党・公明党中心)によるボイコット運動であり、建設反対派(民主党・共産党・市民グループ中心)は、問題の中身や反対理由に触れるより、「住民投票に行きましょう」と呼びかけることを優先しました。
 つまり、最低投票率が明記された場合、不利とされる勢力はボイコット運動を仕掛けて投票自体を無効にした方が得策ですし、有利な勢力は住民投票が成立しさえすれば勝てるからです。徳島市では結果として、投票率約55%で最低投票率をクリアし、このうち賛成票はわずか5%ほどでした。こうした反対多数の結果を得てから今日まで、実際に可動堰は建設されていません。
 この経験から得られたのは、住民投票に最低投票率が設定されると形成不利と考える陣営がボイコット運動を仕掛ける可能性が高まり、賛成派も反対派も、市民同士が問題の中身をよく勉強し、議論し、最終的に投票で決めるという、住民投票の素晴らしさが損なわれるということです。徳島市の事例では、公開討論会は1回も開かれず、連合町会制度の下で依然強力に機能している町内会の縛りがかかり、様々な脅しがありました。その結果、建設的な議論は盛り上がらず、ただ単に「行け」「行くな」の応酬が続けられ、「討議デモクラシー」の面で言えば質の低い住民投票になってしまいました。
 ただし、ボイコット運動は自由です。そして、これが始まったら、建設的な議論は一切行われなくなります。自民党案、民主党案ともに、最終的に最低投票率を設けなかったのは正にこうした問題があるからであり、私自身もこの部分を最も心配しています。
 そもそも最低投票率の規定は法律事項ではなく、憲法事項です。韓国やロシアの国民投票には有権者の過半数の投票を成立要件とする規定がありますが、これは法律ではなく憲法に記されています。しかし、日本国憲法第96条にはそうした規定はありません。したがって、どうしても最低投票率を設けるというならば、まず憲法第96条を改正して明記する必要があり、そのためには一度国民投票を経て、主権者国民の意思を問わなければなりません。もし法律で規定してもいいのなら、時の政権担当者の考えで最低投票率のハードルはあるときは30%あるときは70%と勝手に変えられてしまう恐れがあります。最低投票率は法律ではなく憲法において定めるべきものです。

【注】
 @ 法務省は、「成人」の年齢を20歳から18歳に引き下げる「民法」改正の是非について、2008年2月13日に法制審議会に諮問した。(⇒本文に戻る

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筆者プロフィール
今井 一(いまい はじめ)
1954年、大阪市生まれ。ジャーナリスト。
89年以降、東欧やソ連、ロシアの「民主化」に伴い実施された「連邦存続」「国家独立」や「新憲法制定」に関する国民投票を現場で見届けたことを契機に、巻町や名護市、徳島市など日本各地の住民投票や、スイス、フランスなどで実施された国民投票の現地取材を重ねる。
著書に『住民投票』(岩波新書)、『「憲法九条」国民投票』(集英社新書)、『「9条」変えるか変えないか─―憲法改正・国民投票のルールブック』(現代人文社/編著)など。
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