1.はじめに
新年あけましておめでとうございます。第166回通常国会が始まり、国民投票法案はいよいよ最終局面を迎えます。本連載も引続き、よろしくお願いいたします。
今回は、「発議はわかりやすく」というテーマで、内容関連事項ごとの発議について解説します。
2.「発議」にもルールがある
私たちは投票所に行って、憲法改正案に対して[賛成/反対]の意思表示をします(※)。
憲法改正案の内容が分からないまま投票はできませんので、投票日前に十分理解を深め、意思を固めておく必要があります。
しかし、理解力以前の問題として、[賛成/反対]の判断が簡単でないケースもあります。
【例1】相異なる内容の憲法改正案が一括して投票に付される場合
安全保障に関わる条文改正案と、環境権を新しく創設するという条文案が、一括して投票に付された場合、一方につき賛成、他方には反対という意思を、一つの記号で示すことはできません。
【例2】いくつもの小テーマから、大テーマに相当する憲法改正案が成り立っている場合
安全保障に関わる条文改正案(大テーマ)が、(ア)平和主義の理念、(イ)軍隊(部隊)の名称、(ウ)軍隊(部隊)の活動範囲(=自衛権の意義)、(エ)民主的統制のあり方など、複数の条文・条項(小テーマ)から成る場合には、(ア)〜(エ)のそれぞれについて、[賛成/反対]が分かれうることになります。
そもそも、憲法は一度改正され、または改正案が否決されると、その効果は相当長期間にわたって及んでしまいます。人生の中で、投票のやり直しはききません。
ここに、国会はわかりやすい憲法改正案を発議し、国民投票に付さなければならないという要請が生まれます。発議する側の責務といえましょう。
そこで、国民投票法案(国会法改正部分)は、憲法改正原案を内容関連事項ごとに区分し発議(提出)することとし、区分された内容関連事項は同時に投票単位になることを定めています。
これは個別発議・個別投票のルールと呼ばれています。一括発議や一括投票は認められません。
【例1】は明らかにこのルールに反しますが、【例2】は(ア)〜(エ)のすべてが内容的に関連しているかどうか、発議の際に判断が分かれることでしょう。
3.原案発議(提出)の段階から、内容関連事項ごとに
まずは、下の図をご覧ください。
[第一発議と第二発議]
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第一発議
(内容関連事項ごと) |
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第二発議 |
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衆院議員100名以上
参院議員50名以上
衆参憲法審査会長 |
発議
発議
提出 |
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各議院の
3分の2以
上の賛成 |
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憲法改正
の発議 |
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国民投票 |
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改正原案A |
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改正案A |
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改正案A |
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改正原案B |
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改正案B |
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改正案B |
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改正原案C |
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改正案C |
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改正案C |
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国民投票法制上、発議という単語が2回出てくることにお気づきでしょうか。
衆参両院の議員が憲法改正原案を発議する場合、及び衆参両院の憲法審査会が憲法改正原案を提出する場合、便宜上これらを第一発議と呼び、憲法改正原案について最後の議決があった場合(国会が国民に対して承認を求めること)を第二発議と呼ぶこととします。
憲法改正原案は第二発議の段階で内容関連事項ごとになっていればよいわけでなく、第一発議の段階から内容関連事項ごとに区分されていなければいけません。
したがって、現実的にはありえないと思いますが、第二発議で内容ごとに分解すればいいからと、全面改正の条文案をまるごと、渾然一体と第一発議をすることは認められません。
4.内容関連事項の判断基準
それでは、内容関連事項ごとに憲法改正原案を発議する場合、どのように区分すればいいのでしょうか。内容関連事項の「内容」を法律で定めることは出来ませんので、あくまで区分の仕方が問題です。
現段階では、内容関連事項とは、個別の憲法政策ごとに民意を問うという要請と相互に矛盾のない憲法体系を構築するという要請から決定されるべきこととされています。区分の仕方は、これ以上の形式的基準というものはなく、どうしても政治的裁量が入ります。
いずれにせよ、憲法改正原案は衆参両院の憲法審査会で、十分な審査がなされることになりますので、第二発議に至るまでの間、さらに明確な内容関連事項に区分されることも想定されます。
5.条文ごとはダメ
「内容関連事項なんて分かりづらいので、条文ごとに発議をし、条文ごとに投票をすればいいじゃないか」―との反論もありましょう。
確かに、条文単位であれば、個別発議・個別投票のルールを最も徹底しているともいえます。不可能な要請ではありませんが、条文ごとの投票は、いわゆる虫食い投票の弊害を招き、憲法体系に矛盾がでてしまう場合があります。もっとも、一つの条文が単独で内容関連事項を形成する場合は、その条文を諮ることができます。
なお、国民投票無効訴訟という制度がありますが、内容関連事項ごとになっていないと、発議手続上の「瑕疵」を理由として訴訟を提起することはできません。
どのように内容を区分し、憲法改正原案を発議したらいいのかということにつき、国会議員は相当悩み、判断に苦しむことでしょう。
(※)共同修正案では、棄権の意思表示をどう扱うかも焦点です。 |