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   更新:2010/11/04
 【連載】米国の住民投票
今城利之
第2回 資金調達が決める?住民運動

 [国民投票/住民投票]情報室の会合で、何かなじめないというか「違うやんか」と感じることがある。「お金」の問題だ。フロリダの女性弁護士が進める開発計画そのものに参画しようとする住民運動の記事で、この疑問が解けた。住民運動も結局、お金の問題を避けて通れないのだ。弁護士達が集めた運動資金は240万ドル。それに対抗する団体は5倍の1200万ドルを集金した。

 ニューヨークタイムズが伝えたものだが、フロリダの住民投票を詳しく報道するのは、全米に広がる開発がらみの難問に対する答え、方向を示唆するからだろう。いつの大統領選でも最終段階になると両陣営は集金額を公表する。週ごとにかき集めるお金は日本の政党助成金さえ可愛くみえる金額だが、同じようなことが住民運動でも当てはまるようだ。

 パームビーチの弁護士が進める「ホームタウン・デモクラシー」は地域の成長計画は変更ごとに州民投票を求めるのが内容。成長計画と呼ぶが、マンション建設や土地の用途変更など開発計画にブレーキをかけるのが狙い。対抗する団体にはKBホームなど住宅大手や不動産会社が献金している。巨額資金は運動の飛び道具、テレビコマーシャルにも振り向けており、地方選挙と同日投票の11月2日に向けて戦いは過熱している。米国らしく豊かな資金を持つ反対派には専門コンサルタントも顔をそろえている。住民運動を葬り去るための総力戦の体制をとっている。

 日本でも土地の用途指定ひとつを取り上げても所有者、開発業者、周辺住民にとっては、規制は利害衝突の塊だ。米国ではリーマン・ショックで住宅不況に沈むニュータウンの開発の遅れは深刻である。争点の街区では,暗くなっても点灯する部屋がまばらな高層マンション、カーテンもない空き家が並ぶゴーストタウンとなりつつある。商工会議所を先頭に押し立てて住宅大手がお金を出す理由は、この街区の状況が雄弁に語る。

 日本の住民投票は、ことお金の面から言えば、手弁当主義とでも呼ぶべきだろう。お金がないこと、使わないことが自慢にもみえる。もっとも、ホームタウン・デモクラシーには女性弁護士自身が80万ドルを拠出しており、日本同様、個人の「持ち出し型」の色合いが濃い。それにしても、3ケタも4ケタも違う資金量に驚くばかりだ。

 もう一つこの住民投票で興味深いのは、地元紙のパームビーチ・ポスト紙が住民投票に対し「反対」を明確に表明していること。両論併記型が多い日本の記事とは全く異なる。米国の地方紙は、不動産開発計画には政治と関連業界の癒着に手厳しい記事が多いし、フロリダ州でも不動がらみの汚職で市長が逮捕されている。そうした状況を認めたうえでパームビーチ・ポストは読者に住民投票で反対を薦めている。

 理由は,厳しすぎる規制、計画変更ごとの住民投票などがフロリダの経済発展を阻害するという。ホームタウン・デモクラシーが集めた資金も大半は住民投票に持ち込むために使用した。それぐらい住民投票や選挙は資金を食う。開発計画の変更の度に住民投票すると、その都度、税金の投入することなる。無秩序な開発に伴い住民が新しい消防署の建設費を負担するのも大変だが、ポスト紙は開発を大幅に制限することは地域にとって新規の職場、雇用の創出にマイナスと指摘する。

 規制が厳しくなると関連業者は規制の2次効果にも苦しむ。開発に必要な届け出は1枚の紙切れでも膨大な付属資料が必要になる。洋の東西を問わず、役所仕事の鉄則である。農業団体が反対運動に参加するのも土地を売るのが難しくなるため。また、土地の用途変更も簡単にできなくなるからだ。

 入居が進まないゴーストタウンは、膨大な開発資金が焦げ付いていることでもある。不況の今だから地元紙も開発を後退させる住民運動に反対を唱えた。国の景気対策に必ず住宅建設が盛り込まれるのは、住宅建設の波及効果が高いためで、よく消費者運動の仲間で交わされる「メディアは広告主、大企業に弱い」からとは断定できない。

 フロリダの歴史も背景にある。あのマイアミ・バイスの2人が高出力のプレジャーボートでぶっ飛ばす運河は100年以上も前からエバーグレーズという広大な沼地を埋め立ててできたもの。今回を含め何回も開発中止の住民運動にもかかわらず、開発が続くのも開発の余地がまだまだ大きいからだ。

 開発にストップをかける修正条項4条の可決には60%の得票が必要。それだけハードルが高くなっている。この住民運動の進展は、実は日本にも影響があるかもしれない。今年に入って高利回りで急激に資金が流入したREIT、不動産投信は米国のREITをマザーファンドとするものが多い。中には爆発的な売れ行きに販売を中止したものさえ出ている。ホームタウン・デモクラシー運動が住民投票で勝てば住宅や商業施設に投資するREITは大きな影響を受けるだろう。REITの収益は家賃収入と投資不動産の売買益なのだから。日本で販売するこの種のREIT資産総額は1兆円を軽く超える。

 フロリダの住民運動に日本の投資家があわてる。投資家が知らないところにこそリスクがある。


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筆者プロフィール
今城利之
日本経済新聞社の編集局流通経済部記者、データバンク局次長などを歴任した国際派。当会会員。
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